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九州工業大学、脳型計算を“結晶のまま”で実現 ~切断?研磨のみのYMnO?単結晶で高精度?省電力AI演算に成功~

更新日:2025.09.22

九州工業大学、脳型計算を“結晶のまま”で実現

~切断?研磨のみのYMnO?単結晶で高精度?省電力AI演算に成功~


国立大学法人九州工業大学ニューロモルフィックAIハードウェア研究センターの堀部陽一教授(大学院工学研究院)、田中啓文教授(同センター長、大学院生命体工学研究科)、徐木貞助教(同センター)らの研究チームは、マルチフェロイック酸化物YMnO?単結晶を利用し、新しい物理リザバー計算(PRC)デバイスを開発しました。

YMnO?特有の強誘電ドメイン構造が自然にランダムネットワークを形成し、AI演算を実現します。切断?研磨のみの単結晶試料を用い、極めて低消費電力(総消費電力約1.77μW)で音声認識を実証するとともに、数字認識75%、話者認識98%という高精度を達成しました。さらに150℃でも特性が維持されることを確認し、高温環境での安定利用の可能性を示しました。

本研究成果は、次世代の超低消費電力AIデバイス開発と実装に向けた足彩app哪个是正规的な一歩となります。
9月12日(金)に独科学誌「Small」(ワイリー社)にオンライン版に掲載されました。


(URL:http://doi.org/10.1002/smll.202506397)



■ 研究の背景と意義


AIの高度化に伴い、省エネで効率の高い計算が求められています。その一つが、音声?動作?生体信号などのリアルタイムな処理を行う、「物理リザバー計算(PRC)」で、様々な物理現象や物質の性質を利用して情報処理を行います。しかし従来の光や電気化学などによるPRCの多くは、安定性の問題や、半導体回路との統合が難しいという課題がありました。本研究では、強誘電性や反強磁性を併せ持つマルチフェロイックYMnO?の単結晶に着目し、特別な加工を必要とせず高温でも安定に動作するという新しいPRC材料の可能性を示しました。



■ 研究の特徴


YMnO?単結晶では、三ツ葉状に広がる特殊な「ドメイン」構造が自然に形成されます。本研究では、このドメイン構造がランダムなネットワークを自発的に生み出しPRCに必要な非線形性やメモリ効果を発揮することを実証しました。切断?研磨のみで準備した単結晶を利用することで、極めて低消費電力(総消費電力約1.77μW、ドメイン当たり約0.02nW)での音声認識を実現し、話者認識では、98%の高精度を達成しました。さらに、PRCに必要な特性が150℃でも安定して維持されることを確認し、高温環境下での応用可能性を示しました。



■ 研究の主なポイント


本研究の特徴は、以下の4点にまとめられます。


有効性の実証 切断?研磨のみのYMnO?単結晶において、波形生成?メモリ容量?NARMA2予測などの一般的AIベンチマークを用いてPRC性能を評価し、物理リザバーとしての適合性を発見
高い精度 前処理簡素化でも数字認識75%、話者認識98%を達成
卓越した省電力性 総消費電力約1.77μW、ドメイン当たり約0.02nWと極めて省電力
耐熱性と外部制御 150℃でも特性が安定し、さらに外部電場によりドメイン構造を制御することで、PRC性能を変化可能に


■ 今後の展望


YMnO?単結晶は化学的に安定で、実用的かつ耐久性に優れたPRC材料として期待されます。大規模デバイス製造においても信頼性や均一性を維持しやすく、従来の半導体製造プロセスとの統合も期待できます。今後、ロボットやIoT機器などへの実装が進めば、超低消費電力でプログラミング可能なAIデバイスの普及が加速されると予想されます。この成果は、エネルギー効率の高いスマート社会の実現に向けた一歩となりえます。




マルチフェロイックYMnO3単結晶を用いて音声認識を行う様子

物理リザバー演算により10桁の数字の発音の認識に成功した例



■ 掲載論文


タイトル “Intrinsic Disordered Network in Multiferroic YMnO? Single Crystals for In-Materio Physical Reservoir Computing through Tuneable Domain-wall Structure”
著者名 Muzhen Xu, Kyoka Furuta, Ahmet Karacali, Yuki Umezaki, Alif Syafiq Kamarol Zaman, Yuki Usami, Hirofumi Tanaka, and Yoichi Horibe
掲載誌 Small(ドイツ科学雑誌、ワイリー社)2025年巻, e06397 (2025).
D O I 10.1002/smll.202506397

※本研究はJST CREST、JST ACT-X、JST ALCA-Next、科学研究費補助金、JKA補助事業助成金の支援を受け遂行されたものです。



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【研究に関するお問合せ】
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 教授 堀部 陽一
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 TEL: 050-1739-6134
 Homepage:
http://w3.matsc.kyutech.ac.jp/transition/index.html

 国立大学法人九州工業大学大学院生命体工学研究科
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